前回を振り返ります。
・私たちの体の中には、新しい免疫システムと古い免疫システムがある。
・新しい免疫システムは外来抗原向け。古い免疫システムは自己応答性を持っている。
・古い免疫システムには、NK細胞、胸腺外分化T細胞、自己抗体産生B細胞がある。つまりこれらの免疫細胞たちが、異常自己を処理するのに働いている。
・これらの古い免疫細胞が存在している場所は、腸、肝、外分泌線の周り、子宮内膜、皮下です。
胸腺外分化T細胞の自己応答性は弱く、害はなく、逆に異常自己の抑制に働きます。
通常、それぞれの器官を構成している細胞にはレッテルが貼ってあります。
例えば、「これはA子さんの子宮内膜の細胞ですよ」=>「A子さんの腸の細胞ではない」=>「B子さんの子宮内膜の細胞ではない」
こういった細胞それぞれに識別しているレッテルが主要組織適合抗原(MHC)です。MHCは個人間で配列の違うアミノ酸です。ここで説明したレッテルがアミノ酸配列の違いのことです。
ちょっと難しいですか?でも、ここからが妊娠に関わるポイントです。
例えば、子宮内膜にある胸腺外分化T細胞(古いタイプ)の働きです。
受精卵(胎児)は、お父さん側のMHCもお母さん側のMHCも持って子宮内膜にへばりつきます。
ここで一番最初の質問にあった、受精卵は自己ですか?非自己ですか? です。
このとき、お母さん側の免疫反応は中立でなければなりません。
受精卵(胎児)に対する胸腺外分化T細胞は、受精卵(胎児)や胎盤の増殖が著しい時期は何も取り込みも排除もせずに、ただただ見守っています。実は受精卵側も、お母さんの免疫に攻撃されたり取り込まれたりしないように準備しているのです。
それを少し詳しく言うと、受精卵のMHCのタイプが胎児の細胞増殖過程で異なっているからです。この段階では普通のMHCはまだ発現しておらず、個人間では多様性のないMHCが発現しているので、胸腺外分化T細胞はそのMHCだけを認識しているという訳です。こっちは難しいので忘れてもいいです。
このような免疫システムが上手く働かないと、胎児の細胞がお母さん側の身体の中に迷入してきてしまいます。
その結果、胞状奇胎や絨毛上皮がんとなってしまいます。また、受精卵が排除されてしまえば妊娠不成立もしくは流産となってしまいます。
つまり、自己だと認識して取り込んでも困るし、非自己だと認識して排除するように働いても困ります。
自己でも非自己でもない生命を、お母さんの免疫は中立に受け入れなければならないのです。
いずれにしても、このような妊娠免疫のお陰で胎児は育っていけるのです。
いよいよ話も具体的になってきました。
次回からは妊娠免疫が働かない状況を探っていきます。