新しい免疫であるリンパ球の話を少し。
その後に、いよいよ昔からの免疫の話です。
新しいリンパ球の特徴は、
◎とっても有名、特異性「鍵と鍵穴の関係」です。
1つの物質と反応する抗体は、別の物質には反応できないということです。
とはいえ、我々人間は10億種類の抗体を作ることができ、一つの抗体で似た形をした(類似した分子構造)複数の抗原に対応できます。ですから数多の外来抗原をまかなうことができます。
◎こちらも超有名、記憶が残るということ。
細菌の感染症は1度感染しても免疫が残りにくいのですが、ウイルスの感染症はとても強い免疫が残りやすいのです。
例えば、B群溶血性連鎖球菌(ヨウレン菌)は同じシーズンに何回でもかかる子供がいますね。でも、流行性耳下腺炎=おたふく風邪(ムンプスウイルス)に何度もかかる子供はいません。前回までに説明しましたが、細菌と戦ってくれるのはマクロファージや顆粒球が主体でしたね。かれらにはリンパ球のような外来抗原を記憶する能力はありません。
一方リンパ球には抗原を記憶する能力があるので、「2度がかりなし」なのです!しかし、ワクチンは免疫が弱いので強い免疫は起きません。時間が経つと感染して発症してしまうこともあります。たとえば、麻疹があります。
抗原になるものはほとんどがたんぱく質です。
食物アレルギーもたんぱく質に反応していて、ウイルスも周りはたんぱく質です。たんぱく質より小さいものは、それだけでは抗原になりません。
リンパ球が認識しないのです。
たんぱく質より分子量の小さい砂糖(糖質)やバター(脂質)を食べたことで免疫ができることはありません。
リンパ球が抗原と出会うとクローンは分裂を始めます。クローンとは、同じ外来抗原に反応するリンパ球のことです。
すると特定のクローンが分裂して、どんどんそのクローンが拡大します。次に同じものに感染したとき、そのクローンの仲間がたくさんいるので、素早く抗体を産生して攻撃をすることができます。なので、次には感染がほとんど成立しない。あるいはかかっても軽くすむという現象が生じるのです。
リンパ球は分裂するのに時間がかかります。これが潜伏期間です。
マクロファージや顆粒球は異物を食べる反応はすぐに行われます。だから、基本的に潜伏期間はありません。
例えば、
風邪をひいたときに、寒気がして体がだるいという時期。
あのときにウイルスが侵入してクローンが拡大しています。3〜4日間くらいこの分裂が続いて、拡大は進みます。
この潜伏期間の次に、抗原と抗体の免疫反応が始まります。
免疫反応が始まると、発熱(つまり炎症)が起こります。炎症が始まったら、完全に治るのに平均2〜3日かかります。
風邪をひいて治るには、潜伏期間が3〜4日、治るのに2〜3日(この2~3日を早めるのも鍼灸が有効です)、トータル5〜7日で戦いは終わります。
リンパ球が分裂するエネルギーになるのが発熱です。抗体を沢山作るにはたんぱく質を沢山合成するということです。たんぱく質の合成は温度に依存しています。代謝を活発にしてたんぱく質合成が進む=抗体が沢山ができる。だから、風邪薬をつかって代謝を止めてしまうと治るのが遅れてしまいます。
分かりますね?
だから、「風邪をひいたら暖かくして大人しく寝てなさい。」が基本。
さて、本題に戻ります。
抗体を作るリンパ球は作られる場所によって性質が異なります。
1つは胸腺です。
胸腺はTHYMUSなので胸腺で作られるリンパ球をTリンパ球と呼んでいます。
もう1つのリンパ球は骨髄で作られます。骨髄で作られリンパ球はBリンパ球と言います。(Bone marrow)。
それぞれのリンパ球は作られた後、末梢血(血液中です)、リンパ節、脾臓(白脾髄)に行って働きます。末梢血中のリンパ球は外から抗原が入ってきたときに、血管から遊走してそとにでて働くか、もしくは抗体をを作ります。
どうして抹消血なのかというと、血管というのは抹消つまり毛細血管になればなるほど血管壁が薄く細胞同志の結合が弱いため、血液中の成分が出入りしやすくなっています。そのお陰で細胞へ酸素や栄養の交換ができるわけです。同じように、リンパ球も体の組織内に入った抗原に対して血液中から出て行ってやっつけたり、抗体を出して凝集したりしているのです。
次にリンパ節にいるリンパ球は抗原が組織に入ったときにリンパ液でとらえリンパ管で抗原を集めて、リンパ節に持ってきて戦います。
リンパ管は静脈で回収しきれなかった体液を回収していくつものリンパ節を経由して最終的に大きな静脈に戻すようになっています。
脾臓は血液のろ過装置のような役割で、古くなった赤血球を壊して処理したり、血液中に入った抗原を壊しています。
Tリンパ球は、細胞自ら抗原と反応し、T細胞レセプターで抗原を捕まえます。これを細胞性免疫といいます。Bリンパ球は抗体を作ります。抗体はB細胞膜にもありますが、細胞外にも分泌され、小さな分子なので体液や血液のなかで働きます。これを液性免疫といいました。
Tリンパ球の分化は、
胸腺内で行われるもの>分化後、末梢へ(リンパ節、脾臓、末梢血)と、
胸腺外で行われるもの>腸管、肝臓、外分泌腺、子宮内膜があります。
※分化とは、ある役割を担う細胞に分裂増殖していくこと。
前回も紹介しましたが、胸腺外で作られるのは古いタイプのリンパ球(胸腺外分化Tリンパ球)です。そのほかにも、胸腺外ではNK細胞も産生されています。これも更に古いタイプのリンパ球の仲間です。
この様に、体の中には古いリンパ球が残っており、今でも腸管粘膜や肝臓にリンパ球が沢山つまっています。
古いリンパ球の特性は、自己応答性だと説明しましたね。
新しい進化したT/Bリンパ球は外来抗原向けです。
胸腺外分化Tリンパ球は、妊娠免疫やがん免疫やマラリアの細胞内寄生する抗原などに関係してきます。
このように我々は古い免疫と新しい免疫で免疫システムを作っています。
古い免疫システムには、NK細胞、胸腺外分化T細胞、自己抗体産生B細胞があります。これらの細胞が存在している場所は、腸、肝、外分泌線の周り、子宮内膜、皮下です。
ベーチェット病、シェーグレン症候群などが起きる場所は腸、肝、外分泌線の周り、習慣性流産や抗リン脂質抗体など自己抗体が出るのは子宮、全身性エリテマトーデス、皮膚筋炎、全身性硬化症(強皮症)など、皮膚の病気の多くも自己免疫疾患です。
私達の血液中にはT細胞(70%)、B細胞(15%)、胸腺外分化T細胞(10%)、NK細胞(5%)というようにリンパ球が分布しています。
人間は年をとると、胸腺は退縮して小さくなります。また骨髓も脂肪化していきます。ですから、年齢とともに進化したT/Bリンパ球はだんだん作られなくなり数が減ります。逆にNK細胞や胸腺外分化Tリンパ球などの昔からあるリンパ球が増えてきます。この割合は年齢のほかにも変化する要因があります。これは妊娠とも関連深いもので、それについては後日触れたいと思います。もうカンの効くかたは、分かったかも知れませんね。