腰痛
まさに国民病となっている腰痛ですが、その症状は様々です。
ひとくちに腰痛と言っても、痛みを感じる部分も、痛みの程度も個人差があります。
もちろん原因も様々ですが、ここでは私の鍼灸院でよく見られ、改善可能な腰痛の症状を中心に説明します。
<急性腰痛>
俗称「ぎっくり腰」です。
外国では「魔女のひと刺し」なんて言うそうです。
私も経験した事がありますが、朝の洗面台で・・・。長時間座っていてお尻を動かした瞬間・・・。重たい荷物を持ちあげたようとしたら・・・。
「!!!痛い!!!」
その後は、痛みもあり腰が固まって伸ばせない状態になり、酷い痛みが数日~数週間続く。
このようなエピソードは沢山ありますね。
①一般的なぎっくり腰
体勢を変える時の上体の前屈・後屈、寝返りなどの回旋運動時に痛みが増悪する。
痛いけど何とか動けるレベル=体位を変換する際に強く痛み、暫く動かしていると痛みの程度が軽くなる。この様な症状が最も多い。
②症状の重いぎっくり腰
寝返りもうてない、咳やくしゃみでもかなり強い痛みが襲う。
まったく動けない程の痛み=寝ていても痛いなど痛みを回避する体勢を取ることが困難。
※ただしこの場合、腰以外の原因で腰痛が発生している場合もあり、当院では施術に入る前の段階で詳細の鑑別をしています。
痛みの程度により回復するまでの期間は異なりますが、①程度の一般的な急性腰痛は1~2週間で完治に至ります。
完治までの期間を短くするだけでなく、受傷当初の強い痛みと運動制限を早期に回復させるのが鍼灸治療です。
<慢性腰痛>
二足歩行を獲得した人間の宿命とでもいえるほど、慢性的に腰痛を抱えている方は沢山います。
女性の17人に1人が、男性の23人に1人が腰痛で病院へ通院しているという統計もあり、慢性腰痛は多くの方々を苦しめているようです。
慢性腰痛は非特異的腰痛といって、外傷や骨折などの要因が無く、足やお尻への神経痛など神経根症状も見られないものが殆どですが、原因が特定できないために積極的で正確な治療を受けている方が少なく、完全に治癒するまでに長期間を要し痛みを我慢されている方も多いのが実情です。
長時間同じ姿勢でいると痛みが増強したり、朝布団から起きる時に辛く動きだしてしまうと痛みが軽減する、重たいものを持つと痛いなど急性腰痛ほどの激しい痛みではないものの、持続的に長期間痛みや違和感を感じるものを慢性腰痛としています。
また、長期的な痛みと機能障害は生活の質が低下してしまい、仕事や家事に影響し、結果的に精神的な健康まで損ねてしまうことも少なくありません。
腰痛の原因
◎急性腰痛
一般には筋筋膜性腰痛、椎間関節性腰痛の一部が急性腰痛になりえます。
文字通り、筋肉もしくは筋肉を包む筋膜に傷がついて痛みを発するもの、腰椎と腰椎(腰の中心にある背骨)の関節を捻挫した形になり痛みを発するものです。
◎慢性腰痛
病院では変形性腰椎症とか脊柱管狭窄症などの診断がなされる場合が多い様ですが、前述しておりますようにプライマリケアで腰痛の原因疾患を特定することは非常に困難なことです。
現在の病院では、こういった痛みには消炎鎮痛剤やNSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)の他、オピオイド(モルヒネ)が処方されることもあります。
年齢素因、姿勢、生活スタイルなど腰痛が改善しにくい要因があるのです。
慢性期が長いほど、本来の原因が他に合併した症状にマスクされてしまい、より沢山の要因が複雑に関与して痛みを発症しています。
病態として多くの要因が関与して、複雑に絡み合っている状態と言えます。
慢性期の複雑な病態に対しては、東洋医学的問診と治療は大変有効です。
きゅうあんの施術
急性腰痛(ぎっくり腰)は鍼灸治療の有効性が高く、施術直後に症状の改善が見れる疾患の一つです。
急性腰痛の場合、強い痛みのためうつ伏せの姿勢が難しい場合が多く、横向きに寝る姿勢もしくは椅子に座っていただく姿勢で施術することもあります。
施術効果を最大限位発揮するために、腰背部に余分な力が入らない姿勢=患者様が一番楽な姿勢で施術を受けていただく事を重視しています。
したがって、これから当院の腰痛治療の説明をいたしますが、急性腰痛の場合は姿勢などの条件により可能な施術を行います。
決して、全ての施術を全員に行うものではありません。
当院は東洋医学の基本である、個々人の症状や体質に寄り添う施術をモットーとしています。
腰痛回復を阻害する要因は「循環傷害」と「運動制限」です。
痛みを感じている部分は、循環傷害が起きています。これは痛みが起きている局所またはそれに近い周辺組織は、損傷している部位から放出されているブラジキニン・プロスタグランジンなどの発痛関連物質の影響を受け、反射性の過緊張を起こしているためです。この過緊張は、そこを通過する血管や神経を圧迫しますので痛みはさらに強くなります。ぎっくり腰当日よりも、翌日以降に痛みが酷いのもこのためです。
運動制限については、安静に動かさないようにした方が早く回復するのではないかと思う方も多いと思います。
しかし、ぎっくり腰のほとんどは早くから動き始められた人の方がそうでない人より早く回復しています。
東洋医学においても、動かずに滞留するものを邪(じゃ)としています。流れ続けている水は濁りませんが、流れを止めた溜池などの水は濁ります。
当院では、骨折や出血を伴う中程度以上の外傷以外は、基本的にどのような痛みにおいても、可能な限り早期に動いてもらう事を目標においています。
そのために急性腰痛の場合は、痛い場所=局所の鍼灸施術で痛みを軽減させます。
循環障害の原因である局所・周辺組織の過緊張を緩和する目的で最も効率的なのが、過緊張を起こしている組織へ直接行う鍼灸施術です。ただし、痛みの程度や損傷部位の状態を把握した上で、施術の刺激量を調整しています。今の状態に最も適した刺激量がポイントになります。ただし、沢山の刺激イコール早い回復ではありませんし、刺激量増イコール鍼の痛み増ではありません。
全ての骨格筋と関節は基本的に動くための構造物です。長期間の安静は腰痛の回復を遅らせるだけではなく、筋力の減退や自律神経系の不調を招き、腰痛を慢性化させていく可能性があります。局所の痛みについては、皆さんも想像しやすいように、酷い痛みが続くのは回復の遅れを意味します。腰痛の場合、痛みが軽減された分だけ動けるようになるからです。
急性腰痛の場合、今そこにある痛みを取ることに施術の重みづけをします。可能な限りの鎮痛こそが、ここまでに説明した障害を取り除く最善策だと考えています。
次に慢性腰痛に対する当院の鍼灸の役割は、まず細やかな問診と理学検査で出来るだけ正確に最初に発症した機序を明らかにしていくことです。
痛みを起こしている原因について、人体の解剖学・生理学的根拠に基づいた判断をしていきます。
しかし、慢性腰痛の場合科学的根拠に基づく施術だけではなく、患者様の現在ある痛みについて、どこがどの程度痛くて、どういった動きができなくて、その機能障害が日常生活のどの場面で問題になっているのか、その事で精神的苦痛を強いられていないか、社会的な問題を生じていないかなどを鑑別していきます。
時間経過と共に、痛みは修飾されます。
痛みを助長しているものは何なのか、痛みの本質はどこにあるのか。時には痛みの意味さえ考えるのです。
この事を特記したいと思います。
鑑別の中で発見された問題点に対し、それらの情報を患者様と一緒に正しく整理し直すことが実はとても大切な過程です。
ここまでする事で、複雑化した慢性腰痛に対して、的のズレない核心をついた鍼灸治療を実施する準備ができるのです。
腰痛に限ったことではありませんが、発症に関与している要因が多数かつ複雑になっている状態はよく見られることです。
こういったものに対して、腰が痛いから腰に鍼。頭が痛いから頭に鍼。だけでは解決できない痛みも大変多いのです。
慢性腰痛の場合、我々鍼灸師と患者様との間に生まれる信頼関係がベースとなり、鍼灸施術の受け手である患者様を中心とする医療現場であることが大切です。
発症に至った経緯や、今置かれている環境、生活様式の違いなど、ご本人の訴えを尊重し、それぞれの状況に合わせた施術が必要であると考えます。
ですから、慢性腰痛こそ科学的根拠のみに執着し過ぎてはいけないのです。
腰以外の痛みは無いか、高血圧は無いか、鼻炎は無いか、必要以上の執着心は無いか、皮膚炎は起こしていないか、便秘や下痢など消化器の不調は続いていないか、などなど、一見腰痛とは無縁に聞こえるこれらの症状も、慢性腰痛を是正するために改善が望まれる大変重要な症状です。
例えば、慢性的な鼻炎やアレルギーがあるなら、腰への鍼灸施術以外にも自律神経系に働きかける選穴(ツボ選び)をして、鼻炎への対処も怠ってはいけません。
慢性的な鼻炎をお持ちの方は、鼻呼吸が乏しいため口での呼吸が主体になります。どんな呼吸をしているかは、姿勢にも免疫にも思考にも関与します。
これらの変化は慢性腰痛を助長する要因となりえるため、当院では治療対象となります。
人の身体は複雑です。様々な役割を担った器官系組織があり、それぞれが相互作用しながら健康な状態を保っています。
腰痛であっても、最初はごく一部の変化だったと思います。しかし、一部の変化が長期化した結果、様々な部分にその影響が現れ、思いもよらない大きな変化となります。
痛みの箇所ばかりに注目して局所的な対応に終始すると、良好な結果は得られません。原因と結果は必ずしも1対1の関係ではありません。
東洋医学では古来からこの事を認識していましたので、現代に落とし込んでも病態が複雑化した慢性腰痛を改善するには大変効率的な方法だと言えます。
この様に、きゅうあん鍼灸治療院の慢性腰痛治療は、全体を捉える東洋医学をベースに神経学的検査や関節可動域や筋力検査など客観的な評価も加えながら、慢性腰痛の患者様が一刻も早く苦痛から解放されるよう努めております。